砂漠にも雪が降るんですよ。

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久しぶりに伊坂幸太郎を読んだ。『砂漠』、単行本の記憶は無いのだけど新書サイズになった時によく売れていて気になっていた作品だ。待望の文庫化ということで迷わず購入。

物語の舞台は例によって仙台の大学。法学部の同級生5人を中心にした青春物語。特に際立った個性を見せない冷めた感じの鳥瞰型の北村と遊びに情熱を注ぐ鳥井、そして決して臆することのない信念の固まりの西嶋、超美人でクールな東堂、時たま超能力を発揮する南。北村が一応主人公だがいたって普通な存在で、西嶋、東堂の個性が特に際立っていた。二人ともに個人的に好きなキャラでこの二人の物語ならもっと読んでみたいと思う。

物語はこれも例によって現実的で現実的でないことが春夏秋冬の季節ごとに起こり、この5人が関わっていく。面白可笑しい青春の学生時代が過ぎていく。その先には社会という「砂漠」が待っている。となると学生時代は「オアシス」なのだろうか?いずれにせよぼくにとっても誰にとっても特別な時間であった学生時代を、これだけ個性のあるキャラに演じられると魅入られてしまい思わず懐古的になってしまう。鳥井には悲劇が起こるが、北村ならこういう学生時代もよかったなと思う。自分の学生時代を振り返るにはよい本だ。

ただ西嶋が「信念を貫けば、砂漠にも雪を降らせることだってできるんですよ」とかいうことを言っているが、砂漠にも雪は降るし積もりもする。少なくともぼくが見た砂漠はそうだった。北村は大学を出てやがて砂漠に揉まれることを強く予感しているが公務員になるところが最後なんだかなあと思ってしまった。

麻雀が作中よく登場するので麻雀に興味ないぼくにはその部分だけが読みづらかった。見事な台詞回しは伊坂幸太郎そのものだった。

最後にお約束の?仕掛けがあるのだがなるほどな〜、深いな〜と感心した。春夏秋冬、学生時代はあっという間に終わったとさ、ということをまじまじと実感させられる仕掛けだった。