テントを新調した勢いで今年のゴールデンウィークはほとんどアウトドアフィールドに出ていた。
前半は和歌山の透明度抜群の清流、赤木川でカヌーセッション。
中日は近所の須磨アルプスへ。
そして後半は高島トレイルへ。
高島トレイルセクションハイク DAY1 5/7 国境→黒河峠
神戸の自宅から登山口まで電車、バスを乗り継いでおよそ3時間。
スキー場のバス停は冬季のみの営業だが、山の格好をした我々を見て運転手さんは当然のごとくスキー場までバスを走らせてくれた。
登山口には我々だけで、他に人の気配がない。
8時58分、小雨が降る中ハイクスタート。
まず、先に見える鉄塔を目指して登り詰めていく。
雪がなく、人の気配がしないゲレンデほど寂しいものはない。
今回はスルーハイクに向けての水場の偵察も兼ねている。水場の様子がよく分からないので二日分の水3.5リットルと食料は生食材中心にしたのでパックウェイトは17kgにもなった。
ゲレンデ最上部に着いた。スキーで滑り降りたら1分もかかりそうにない。
雨が止んだのでレインジャケットを脱いで新緑の森に分け入る。
自然に溶け込む配色のマーキングテープが一定の間隔で巻かれている。控え目なので分岐では気をつけて探さないと見落としてしまう。
ガスが立ち込めるトレイルに新緑が映える。緩やかな登りなのでザックの加重はあまり気にならない。
落ち葉が溜まってふかふかで膝に優しい。
曲がった木々と立ち込めるガスが不思議な雰囲気をかもし出している。
稜線に出た。冷たい風が当たるが樹林帯が続くので体温を奪われることはない。
緑が豊かな稜線を歩くのは久しぶりな気がする。
次の目印の鉄塔がかすかに見える。
稜線に出てからは登ったり下ったりの繰り返し。緑のトンネルのようなセクションがあったりと楽しませてくれる。
何本もの鉄塔を通過する。巨大な人工物を目にしても不思議なことに興ざめ感はない。ガスにかすむ様子は見上げれば不気味ではあるが。
入山してから他のハイカーにまだ出会っていない。足を止めれば不思議な森の中、聞いたことのない鳥の鳴き声と風にそよぐ新緑の音しか聞こえてこない。
開けたポイントで振り返ると、抜けてきた森とゲレンデの鉄塔が見える。
日本海側には晴れ間が見える。
乗鞍岳ピーク、平たく開けていてコンクリートの小屋がある。
雨は完全に止んでガスがぐんぐん上がっていく。
次はあの電波塔を目指す。
このあたりで初めて他のハイカーに出会う。北上してきた15人程の大きなパーティーだった。ザックの大きさからスルーハイクかもしれない。
トレイルの幅が狭くて植物が生い茂っているので、パンツの裾がどろどろに濡れてくる。ゲイターがあってもいいのかもしれない。
監視カメラの付いた巨大な電波塔の脇を通過する。設備維持のためのアスファルトの道やヘリポートがあったりで何かと落ち着きのない場所だった。
電波塔を足早にパスして森のトレイルに復帰。
ひと山越える度に植生が変化して飽きることがない。
まだまだ鉄塔が現れる。鉄塔周辺は作業員のふみ跡が多いのでルートロスに気をつけたい。
トリコニ60にソーラーパフをつけて充電しながら歩く。
また森の様子が変化して幻想的な雰囲気に。鹿の形跡は沢山見かけるが、熊の形跡はまだ見ない。
薄暗く、不思議な森を抜けると明るくなってきた。まもなく今日の幕営地、黒河峠だ。
14時頃、黒河峠着。琵琶湖側集落へのエスケープルートとトイレがある。トイレ脇に地元ナンバーの軽自動車が停まっていた。まだ歩ける気がしたが、無理をせず今日はここまでにする。ステラリッジを林道脇に張る。強めの風が日本海側から吹いているが、ここだけが不思議なぐらいほぼ無風だった。
ふたりで担ぎ上げた水。
水場の情報は地図では分かりにくくて周辺を少し探し回った。沢の音が聞こえるのになかなか見つからない。iPhoneの電波を入れてみると3Gを掴んだので調べると、林道を少し日本海側に下ったところにあるという。行ってみると水量豊富な沢が流れていた。夏場でも枯れることはなさそうだ。一応、物理フィルターを持ってきたが使う必要がないぐらい澄んでいてそのまま飲めそう。
寒いので沢の水でコーヒーを淹れる。格別に美味しく、体があたたまる。
鳥の鳴き声を聞きつつしばらくまったりして、肉を焼きにかかる。まずは牛肉をポン酢タレで。これもまた格別に美味しい。
続いてタレで仕込んだ豚肉。1本だけザックに忍ばせてきたビールも開ける。他に誰もいなくて至福の時間が流れる。
陽が差してきた。
テントの先は歩いてきたトレイルの入り口だ。誰か歩いて来ないかなと思ってみたりもするが、誰も来ない。寝袋に入ってまどろんでいると人の声と車のドアの閉まる音が聞こえた。車は琵琶湖側に下りていって、エンジン音が聞こえなくなると再び鳥の鳴き声と風の音だけになった。
目が覚めたのでパスタを茹でる。1分で茹で上がる山食向けのパスタだ。
和えるだけでできるペペロンチーノ。
茹で汁にコンソメを入れてスープにする。
陽が暮れてきたので充電してきたソーラーパフを灯す。
寝袋に入り、テントの周りの自然が立てる音に耳を傾けながら地図を見たり、話をしたり、ただぼんやりとしたりして過ごす。19時就寝。目覚ましはセットしない。
高島トレイルセクションハイク DAY2 5/8 黒河峠→寒風経由マキノ高原
21時に一度目が覚めてトイレにいってからは熟睡したようで起きると4時半だった。
朝食はホットドッグ。
幕営地撤収、昨日と打って変わって快晴だ。
トイレで歯磨きを済ませて、6時丁度にハイクスタート。今日は寒風まで歩いてマキノ高原に下山する。
昨日とは違う輝きを見せる新緑の中へ分け入る。
朝陽を背中に受けて歩く。
登ってすぐの水場、ここも浄水器なしで飲めそう。
ガスのない新緑の森は昨日とは全く様子が違う。
水場を確認しつつ歩く。明王の禿手前に数カ所幕営適地があった。
明王の禿が見えてきた。
彼方に鉄塔が沢山見える。
7時42分、明王の禿。ここで今日初めて人に会う。トレランスタイルだったので今朝上がってきたのだろう。
天気はいいのだが琵琶湖はかすんではっきりとは見えない。
明王の禿を越えるとまた植生が一変した。イワカガミがそこかしこに咲いている。
8時19分、赤坂山ピーク。
この先は見通しのいい草稜が続く。昨日とは違う世界で本当に歩いていて飽きない。他のハイカーにも沢山出会った。ほとんどがデイハイカーだが、北上するULスタイルのスルーハイカーもいた。相変わらず鉄塔が多い。
粟柄越からもマキノ高原に下山できるが、せっかくなので寒風まで歩く。この先に鉄塔はない。
この日もそこそこ暑かったが、夏なら陽射しがきつくてさらに暑いだろう。
草稜帯でも歩く度に植生が変わるので何度も言うけどハイカーを飽きさせないトレイルだ。
マキノ高原が見えてきた。
手前にキャンプ場、その先にセコイヤの並木も見える。
雲谷山へのアプローチ。一瞬ピークに鹿を見る。
9時42分、雲谷山ピーク。
ブナの木漏れ日の中を歩く。
10時、寒風着。ここでさらに先へと続く高島トレイルには別れを告げる。いつかまたこの先を歩いてみたい。セクションハイクだけでも高島トレイルの魅力にどっぷりとはまってしまった。
後ろ髪を引かれつつも、後はただ眩しい新緑のブナの森にダイブするように下りていく。
始まりがゲレンデなら、終わりもゲレンデだった。
しばらくゲレンデに座り込んでぼんやりと過ごす。まだまだ歩いていたい気分だった。ぼくは心底山を歩くのが好きなんだなと思った。
たった2日間だったけど、変化に富んだトレイルはそれ以上の時間と空間の体験を与えてくれた。
セクションでつないで全行程踏破、そしていずれはスルーハイクへ。山の目標がまたできた。