ジャンダルム越え、そして槍穂縦走へ DAY 1

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初めてジャンダルムを生で見たのは5年前の秋だった。奥穂ピークから龍の鱗のようにも見える異形の岩稜帯を目にした時、ああ、ここはまだ立ち入ってはいけないところだな、とその時は写真に収めるだけにとどめた。

あれから5年、毎年のように北アルプスのソロ縦走をやり、精神的にも技術的にも準備をしてきた。そして、そろそろ頃合いかなと今回挑戦してきた。
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9月22日(火)から24日(木)にかけて天狗沢からジャンダルムにアクセスし、槍穂をソロで縦走してきました。以下、レポートです。

DAY 1 上高地〜天狗沢〜ジャンダルム〜奥穂高岳

仕事を終えてバスターミナルへ。最近の北アルプスへのアスセスは電車が多かったので、さわやか信州号に乗るのは久しぶりだ。ほとんど眠れずに定刻通り5時半に上高地着。バスを出た瞬間あまりの寒さに驚く。吐く息が白く高く立ちのぼる。

夜行バスが次々とターミナルに着いてハイカーをおろしていく。
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今日は奥穂までの予定。重太郎新道から登るならある程度CTが読めるが、今回はバリエーション初級とも言われる天狗沢からアクセスしてジャンダルムを越えて行く初めてのコース。どれぐらい時間がかかるか分からず気持ちが焦る。

まず登山届を出す。遭対協の方に渡すと、今日は最高にいい天気ですよ!と言っていただく。近くには制服の警官も居た。遭難を未然に防ぐためだろう。

落ち着いていこうと腰を下ろして朝食のおにぎりを食べ、ストレッチをして準備を整えて6時ハイクスタート。
河童橋付近から今日登る稜線を見上げる。ちょうど朝日を受けて輝いている辺りがジャンダルムだ。
まずその手前のV字に切れ込んだ天狗のコルを目指す。
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ほとんどのハイカーが涸沢を目指すコースに行く中、岳沢に入る。まずは樹林帯。前後に何人か人がいる気配がするが視界には入ってこない。
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しばらく行くと沢のガレ場に出る。稜線の右手からぐっと落ち込んだ所が天狗のコル。
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寒いだろうと覚悟していたが登り始めてすぐに体は暖まり、日に当たると暑いぐらいに。
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岳沢小屋までは看板がカウントダウンしてくれる。稜線まではあと1000メートル以上登らないといけない。
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岳沢小屋に着いて休憩。小屋前のテラスでは結構な数の人が休んでいる。腰をあげる人のほとんどが下りて行くか重太郎新道を登って行くかだ。
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天狗沢には誰も入って行かないので少し不安になる。15分ほど休んで天狗沢へ。快晴で条件は申し分ない。

目指すところは真ん中の切れ込んだコルだ。しばらくお花畑が続くがすでに花は散って草紅葉が始まっている。
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上高地を振り返る。随分登ってきた。後方からふたり登ってくるのが見えた。
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ガレ場が近づくにつれて勾配も急になってくる。日を遮るものがないので暑い。気づくと滝汗をかいている。息もあがってきた。この辺りで、今朝奥穂を出てジャンダルムを越えてきたと思われる人達とすれ違う。

後ろから登ってきていたふたりに追いつかれる。ぼくと同世代の夫婦だった。しばらく会話をしてお互いジャンダルムは初めてということで、これ以降励ましあいながら、抜きつ抜かれつ登ることに。
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ガレ場に入り、沢の両岸の岩壁が切り立ってきたところでヘルメットを装着。焦らずゆっくり行こうよということで貼ってきたアルパカちゃんシール。
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ガレ場を登り詰めるに従ってますます息があがり、足の動きも鈍くなってきた。激しく喉が渇き10分おきに給水する。ペースを上げすぎたかもしれない。周りでは時々ガラガラと落石の音がかん高く響く。危険なので早くコルに抜けてしまいたいと、なんとかペースを維持する。

沢が狭くなってくると落石の音も、後ろから登ってくる夫婦の声も岩壁に反響して耳元まで届く。すぐそばで声がした気がしてはっと振り返るが、ふたりはまだはるか後方だったり。
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手をつかないと登れないような斜度になってきた。後ろを振り返ると谷底のように見える。ここはエスケープルートだが下るのは大変そうだ。
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コルが見えてからが長い。登っても登っても着かない。さすがにペースが落ちてきて夫婦に先に行ってもらう。
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ようやく下から見上げていたV字に切れた先っぽ、天狗のコルが見えてきた。
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9時57分、天狗のコル着。
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コルの西穂方面はいきなり垂直の鎖場だ。ちょうど取り付いている人がいて鎖の音が響き渡り、上空では何故かヘリがホバリングしていて一気に緊張感が高まる。
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昼食代わりにクリフバーを食べていよいよジャンダルムへ向かう。

稜線沿いにジャンダルムがある高度まで上昇するのだが、この登りが地味に長くて体力を使う。
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振り返ると真ん中に切れ落ちた天狗のコルが見える。
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途中、飛騨側をトラバースしたり。
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チムニーを上昇したり。
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直射日光が当たる中、ガレ場を登ったり。
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振り返ると焼岳がはるか下方に見える。
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この辺りで一度ルートを外してしまう。トラバース気味に行くところを稜線に乗ってしまった。戻って必死で丸印を探し出す。20分ほどのロス。
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丸印は必要最小限でしかも消えかけているものもある。岩の模様に紛れ込んでいてルートファインディングに時間を使う。戸惑いも不安もあるが落ち着いてこのコースのバリエーション的な部分を楽しんでいく。

黄色い丸を発見。
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ここは白い丸。
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11時48分、上り詰めると目の前にジャンダルム、その背後に奥穂ピークが目に飛び込んできた。ジャンダルムは西穂側から見ると横長のぼってりした感じに見える。

コルからここまでの急登に2時間ほどかかったことになる。しばらくひとりだったのでジャンダルムと奥穂ピークに大勢の人を見てほっとする。さらに先には今回の縦走のゴール地点、槍ヶ岳が見える。
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真ん中に奥穂ピークが見える。
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西穂側にあるジャンダルムへの取り付き。基部は鎖を使うが後はそれほど斜度はない。奥穂側からは一旦信州側を巻いてアクセスする。
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ジャンダルムの天使。穂高岳山荘も見える。
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ジャンダルムからは360度抜けのいい風景が広がっていた。ただ天気が良すぎて眩しくてまともに見ていられなかった。

ここからが核心部が続く本番だとジャンダルムから先を見る。右手にロバの耳。ロバの耳は登らずに飛騨側を下降してトラバースしてさらに下降して巻く。奥穂の手前のナイフリッジ、馬の背も見える。
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矢印の先を乗っ越せばロバの耳の下降に入る。
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その前にジャンダルムを振り返る。こんなに近くで見ることができるとは、5年前は思いもしなかった。
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ロバの耳の下降に入る。
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前方にはロバの耳を巻いた先、馬の背がある稜線に上昇する岩壁が見える。
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先行者がいたのでルートを観察。間隔が詰まりすぎると落石が恐いところだ。
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ロバの耳のトラバース部分。
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ロバの耳を下降し終わって前方の岩壁を見上げる。
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ロバの耳を振り返る。どこをどう通ってきたのか分からない。
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馬の背への上昇は余裕がなかったのか写真がない。岩壁を登り切ると前方に馬の背。天狗沢から一緒だった夫婦がちょうど取り付いていた。ロバの耳からここまで前後に人が居らず、落石の点では安心できて自分のペースで落ち着いてくることができた。馬の背も単独での取り付きになりそう。ルート、というか足の置き場に不安があったので前方に誰か居ればよかったのだが。
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間近で見て、まじかよ、と思わず声が漏れる。足に疲れが溜まっているので踏ん張りが効くか屈伸をして確認する。
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ジャンダルムを一度振り返って水をひと口飲む。両端は完全に切れ落ちているので下を見ないようにして馬の背に取り付く。
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登り切るまで3分ほどだったと思う。意外にも恐くはなかった。他にはない、例えようのない稀有な経験だった。馬の背上部から振り返ってしばらくジャンダルムを眺める。
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後は奥穂へと続く稜線を歩きつつ、ひつこく馬の背とジャンダルムを振り返る。
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ため息とともに、すごい山だな、としか感想が出てこない。
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13時22分、ジャンダルムにガスがかかり始める。本当に越えてきたんだなと実感を込めてシャッターを押し、肉眼にも焼き付ける。
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13時24分、奥穂ピーク。すでに6時間歩いている。垂直の岩壁登りでいつもと違う筋肉を使ったからなのか、腕も足も、全身に疲れが溜まっている。水も2.5リットル担ぎ上げたのだが暑さと乾燥で消費ペースが速くて、残り250ミリリットルしかない。
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明日に備えて早くテントを張って横になりたかった。ジャンダルムとの別れを惜しみつつ先を急ぐ。
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間違い尾根の巨大看板。
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山荘に向かって下降していく。
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ここは何度見てもすごいところに小屋を作ったものだと思う。
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14時半、穂高岳山荘着。テン場はまだ空いていた。テントを張ると睡魔が襲ってきたのでアラームをセットして30分だけ眠る。爆睡した。前回はこのまま日が暮れるまで眠ってしまい夕日を見逃すという失態を犯したので今日はまだ眠いが気合で起きてコーヒーを淹れる。
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涸沢を覗き込んだり。
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奥穂方面からは16時を過ぎても続々と人が到着する。
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登っている間は雲ひとつなかったのに、いつのまにか雲海がすごいことに。
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せっかくなので夕日を見ながら夕食。
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今回は軽量化のためにフリーズドライばかり。やっぱりおいしくないけど無理にでも食べておく。
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あとはただ夕日に見とれるばかり。
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前回は寒さのあまり眠れなかったので、今回はシュラフのウォームアップシーツとカバーを用意してきた。さらにナルゲンで湯たんぽを作る。

18時就寝。

あれだけ眠たかったのになかなか寝付けない。外で、こっちだぞー、と叫び声が聞こえたのでフライを開けると暗闇の中、奥穂方面からヘッデンの明かりがいくつも下りてきているのが見えた。時計を見ると20時。5人程のパーティーだった。

再びシュラフに潜り込む。湯たんぽが効いて暖かいのだが、脳が興奮しているためか寝付けない。明日は予定通りだと、涸沢岳、北穂、南岳、中岳、大喰岳と3000メートル級を5座越えなければならない。

なんとか眠って体調を万全にしたい。

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